【無窮玉心流彌和羅理業解極意大全】 組討名人、長谷川英信が伝えたいま一つの和術、無窮玉心流の秘伝書にその深奥を覗く
長谷川英信はやっぱり組討名人であったと言う話 現代居合道の基盤となった土佐居合、無雙直傳英信流の元祖、長谷川内蔵之助英信の正体は本当に謎に包まれている。夢語人は一般説を採らず、英信が林崎系居合傳人である事を懐疑し、その本質は組討名人である事を古くから称えてきた。 とは謂いながら実を云えば信州や土佐に伝わる無雙直傳和義とは二代目の荒井清哲以降に大成された体系であると思われ、英信が伝えた和術の古典体系はいま一つ判然としないのである。なんとならばそれは元祖発行の秘伝書が未だ発見されていないからであり、よってその本質を窺う事は極めて難しい……。 しかし元祖傳和術探究の為に注目すべき不思議な流儀が一つある。無雙直傳和義と兄弟流儀とされる無窮玉心流和術である。同流は元祖から既に枝分かれしており、荒井氏を通していない大変に貴重な系脈なのである。依ってこそその本質を探究する事によりその根元たる長谷川英信の實相にもある程度近づき得るのではないかと思われるのである。 しかしこの無窮玉心流は大変にマイナーにして確かに面妖なる流儀であり、まず権輿伝説からして独特である。元祖が長谷川内蔵之助である事は間違いないがその根元は漢土の玉心師にあるとしており、なんと流儀自体が南蛮渡りの舶来武術である事を称えている。 かたや、その根元を中世の異僧、意慶坊長遍におき一千年以上に渡る連綿たる日本國傳脈を称えた信州傳無雙直傳和義の独特の歴史観とかなり隔たりがあるが、双方他愛の無い文飾に過ぎないのかも知れない。また同時期の武芸者、小笠原玄信齋や水早長左衛門なども唐土傳秘法の招来伝説を保有しており、当時における元祖伝記の話の枕の定石であったのではなかろうか。 ともあれ玉心流の秘伝書を開いてみると流名の意味合いから解説し、そして流儀の極意傳法を図を交えて詳説しているのであり、正に流儀の最高ランクに位置する秘伝書中の秘伝書であるかと思われる。 興味深いのは「骨法」と言うワードを用い、特殊な手之内秘武器を図説している事である。無雙直傳系にも「骨法」は「骨法扱」「骨法返」なる刀の柄を掴まれた時の対処技法が伝えられているが、両者の意味合いは相違している。両流の一致点を検索すると同秘伝書の「戸入之事」や「野中之幕」なる名称と教えの内容は無雙直傳系とも大体は共通しており、やはり両流は同じ長谷川英信傳武術に根元を持つ兄弟流儀である事を証左しているのである。何れにしろ後世の英信流は居合傳と和術傳の混合流儀として伝わっているが、根元たる長谷川英信は組討和術名人であった事は事実であり、しかして棒は戸田流、槍は宝蔵院流の達人であった事までは間違いない。剣術が出来ない武士はおらず、剣も、そして居合術もある程度出来たかと思われるが、資料によると無雙直傳の系脈に本格的な林崎居合を導入したのは二代目荒井清哲であろうかと考察されるのである……。
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